『回る回る運命の輪回る3 君と僕と、未来の世界』11話

翌日の朝、僕はいつものように家を出て、学校に向かった。本当は学校に行くような気分ではなかったのだけど、日中はどこに隠れているのか、僕の前に姿を現さないソサエティの警備の人がわざわざやって来て「普段通りの行動を取るように」と念を押して行ったので、仕方なく登校することにしたのだ。

でも、どういうわけなのか、一緒に来ようとしたノアちゃんは僕の自宅を守っているようにと命令されて、家に残ることになった。
「……では、行ってらっしゃい」
「……行ってきます」
どことなく不安げなノアちゃんに見送られ、それに負けず劣らず不安な顔で、僕は家を出た。
(一体、何が起きているんだろう……?)

こういうとき、誰か尋ねられる人がいればいいのだけれど、でもその唯一の存在だったあかねさんは、意識を失って病院のベッドに横たわっている。
(考えてみたら僕、ほとんどソサエティのこと、知らないな……)
運命に介入して世界を正しい方向に導く組織、ソサエティ。今まで色々な人に出会って話を聞いて、少しは分かったような気になっていたけれど、でも僕は、ソサエティが本当はどういう組織なのか、どういうことをしているのか、ほとんど知らない。

「おはよう……」
物思いにふけりつつ歩いていると、後ろから声を掛けられた。
「あ、おはよ……」
振り返ると、硬い笑みを浮かべたちはるが立っていた。そのなんだかちはるらしくない笑顔を見て、僕は反射的に左右を見回した。僕の目には入らないけれど、きっとどこかにソサエティの警護の人がいるのだろう。周りはごくごくありふれた住宅地で、隣近所の人たちは子供の頃から知っている人たちばかりだ。だから、なにか異変があったらすぐに気がつくだろうけど、でも、ちはると一緒にいる今、もしなにか……。

「今日、英語の小テストだね? 勉強した?」
ちはるはいきなり、そんなことを言った。
「え? いや、してないけど……」
「もう、だめじゃん。こーちゃん、お菓子の専門学校に行くんでしょう? だったら他はいいけど、英語は使うこと、あるだろうから……」
ぎこちなく、でも一生懸命な笑顔でそんなことを話すちはるを見て、気がついた。
気を遣ってくれてるんだ。

昨日、僕がいきなり帰ってしまって、ちはるも岩田くんも変だと思ったにちがいない。本当だったら、今も何があったのか聞きだしたいのだろうけれど、でも僕が話す気になるまで、そっとしておこうとしてくれてるんだ。
「だって、料理人の人とかパティシエの人とか、外国で修業するものなんでしょう? あ、でも、そしたら英語だけじゃなくて、他の言葉も勉強しないといけないんだね……」
ちはるの気遣いがうれしくて、でも同時に、苦しかった。

たぶん、ちはるは岩田くんと話して、そうしようと決めたんだろう。二人とも、僕を信じて、そうしてくれたんだろう。
でも、僕にはそれに応える力がない。あるのは、人の運命をおかしくする、妙な力だけ。
「ごめん、今日、先生に呼ばれてたんだ」
たまらなくなって、僕は言った。
「え? こーちゃん?」
「ホームルームの前に職員室行かないと、怒られちゃうから」
「ちょ、ちょっと、待って……」
ちはるの言葉を聞くこともなく、僕は走り出した。

僕がいるだけで大切な人が傷つく。僕にはそれを止めることもできない。支えてもらっても、僕はそれに答えられない。誰を助けることもできない。
もう、どうしていいのか分からない。

                                 つづく

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