8月某日 即興小説

即興で小説を書く、というイベントに参加した。小説家は三人一組になり、お客さんからもらったお題で、リレーで即興小説を書く。

「そんな状況でよく書けますね」と言われるし、自分でもそう思うが、存外、書けるものである。今まで、書けなかったことはないし、「真っ白でなにも書けませんでした」という人も見たことがない。そういうのが得意というか、腕に覚えのある人が参加しているのだから当然といえば当然だが、毎回、「あなたも私もすごいな」という気持ちになる。

この即興小説が面白いのは、即興で物語をひねり出すということはもちろんだけど、その書き手の、素の部分がモロに出るという部分だと思う。言葉遣い、物語の運び、大げさに言えばその時点でのその人の小説観、核のようなものが如実に現れる気がする。

30分ぐらいで自分のパートを書き上げなければならず、そうすると化粧をしたり、こぎれいに整えたり、あるいは調べものをして足元を固めたりする暇がまったくないので、頭の中に浮かんだほぼ素のままのものが出てしまうのは当然といえば当然なのだが、書きあがったものがあまりにも自分、だったりするので、後で考えるとちょっと恥ずかしい。全裸で格好付けているような感じ、といえばいいだろうか。

あと、参加している人はそれぞれ、名前もキャリアもある小説家なのだが、出番の前は緊張している。本当に緊張している。嫌だなあ、という顔をしている。「帰りたい」とか言ってるやつもいる。今回は特にお客さんも多かったので、これまで以上に緊張した。大の男が楽屋で言葉少なになっている様子は、決してお見せできるものではないが、この風景も、ちょっと面白い。なにより大人になっても、新鮮に緊張できる場所があるというのは、幸せなことである。


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