11月某日 あの人は今

家の近くに、有名な商店街がある。どれぐらい有名かというと、大阪の商店街ロケといえばここ、というぐらい有名な商店街である。そしてその商店街の中ほどに、一見の洋品店がある。全国どこにでもあるような、女性向けの、あまり客の入っていない、この店どうやって成り立ってんねやろ? と前を通るたびに思うような、そんな店である。

この店の軒先には出色の存在がある。それが、私が「あの人」と呼んでいるマネキンだ。マネキンといえば、とてもスタイルがいい。そして、細いものである。時代を映す鏡でもあり、前にどこかのテレビで見たが、最近のマネキンは昔のものより足が長くなり、ふともももウエストも、ずっと細いのだという。

しかし「あの人」は違う。なにしろ、「あの人」は、おばはんなのである。背は、おそらく百五十センチ台だろう。ずんぐりしている。そしてちょっと猫背だ。たぶん、普段あまり運動をしていないのだろう。自宅のテーブルには、カゴに入ったせんべいが常備されているのかもしれない。ちょっと太めだが、おなかが出ているというのではなく、年を取って背中に肉がついてきた、という太さである。

このように、「あの人」は決して、整った容姿はしていない。つまり、おばはんのフォルムとして完璧なのだ。マネキンなのに。さらに言えば、耳の、ちょっと下の辺りが欠けている。転んで欠けたのだろうか。このお怪我も、「あの人」のリアルさに一役買っている。この洋品店の前を通るたび、私は「あの人」に目礼する。そして心の中で「最近、どうですか」と話しかけたりするのである。

しかし先日、久しぶりにその店の前を通りかかったら、なんということでしょう、そこには「あの人」の姿はなかった。代わりに、別のマネキンがあった。「あの人」に比べると、ちょっと背の高い、少し意地悪そうな顔をした、水商売の経験が豊富そうなマネキンであった。

一体、「あの人」に何があったのだろうか。この新人さんとの争いに負けたのだろうか。あるいは、今度は致命的なお怪我でもされたのだろうか。

これを書いている段階で、「あの人」がどうなったのかは分からない。心配、というのも変だし、正直、別に寂しいわけでもないが、ふとした折に「あの人」、どうしたのかな、とは思う。

まあ、案外秋のバスツアーに参加して、どこかで美味しいものでも食べておられるのかもしれない。


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