『プラットホームの彼女』

【注意!】
自作解説にはネタバレが含まれていることがあります。未読の方はご注意ください!


『プラットホームの彼女』は、2015年に刊行、その後、2016年に光文社文庫になった作品です。水沢秋生の作品としては、五作目となる長編小説です。

 この作品は、ある駅と、そこに現れる少女、そしてそれを巡る人たちの物語です。連作短編という形式を取っているため、複数の人物の、複数の物語が語られます。

 あえて作品のテーマをいうなら「時間」と「後悔」ということになるでしょうか。

 といっても、この作品に限らず、普段小説を書くときには、「今回はこんなテーマで」と決めてから書き始めるということはまず、ありません。最初に、状況なり、舞台設定なり、登場人物なりがいて、そこから話が始まる、というのがいつものやりかたです。

 この作品の場合、最初に浮かんだのが「夕暮れの駅」、そして「そこに立っている少女」でした。駅は、それほど大きな駅ではありません。都会というよりは、むしろ田舎。見渡せば、「手付かずの」と言わないまでも、まだまだ緑の気配がします。ホームの上には、彼女以外に、人の姿もない。

 彼女は制服を着ています。ということは、近くの学校に通う学生さん。年齢から見れば、高校生ぐらいでしょうか。

 彼女は、ぼんやりと何かを見ています。向かいのホーム? 周囲の風景? 線路? まさか飛び降りようと思っている?

 けれど、どうやら違うようです。彼女は、たぶん何かを待っている。そんなふうに見えます。

 では、彼女は何を待っているのでしょう……?(注1)
 
 このイメージが、物語のスタート地点でした。まだこの段階では、物語はどのようなものになるのかはもちろん、長編なのか、短編なのかという区別もついていませんでした。

 そこで書いたのが、作中の第一章となる「始発電車の彼女」です。ここから物語全体が始まることになります(困ったら、なんでもいいから手を動かすのは大切なことです)。

 ちなみに、当初はそれぞれの章題を「~の彼女」で統一していて、『プラットホームの彼女』というのも、その中のひとつでした。が、「~の彼女」という章題を並べると、意外に字面が鬱陶しいことになり、中にはどう見ても「無理くり」というものもあったため、現在の形に落ち着き、その中から『プラットホームの彼女』が全体のタイトルともなりました。

「青春ミステリー」として紹介されることが多く、表紙もイラストなので、「若い人向けの作品」だと思われがちですが、作中には、中学生や高校生だけでなく、様々な立場や年齢の人が登場します。

 そのため、色々な立場の方に読んでいただきたいし、あるいは一度読んだ人が、数年経ってからまたもう一度目を通したときに、どんな感想を持たれるのだろうかと、著者としてはそんなことを思ったりもします

 この作品は水沢秋生の代表作といえるもののひとつです。「青春小説の書き手」といわれることもありますが、それはこの「プラットホームの彼女」による部分が大きいと思っています。

 自分なりに手ごたえもあり、著者としてはなかなか自信を持って送り出したものなのですが、残念なことに、あまり売れることも評判になることもなく、ここから水沢は「何を書いたらよいのだ?」という時期に突入することになる、という意味でも、ある意味エポックメイキングな作品だということができるでしょう(とはいえ、その後文庫になった後には、書店で展開していただいたりしたこともあったので、あながち最初の自信も間違っていなかったと、今では思っています)。

また、以前noteにて私の「全作解説」(https://note.com/yatsuyaguruma/n/n78fffc2ad551)というおそろしいことをやってくださった谷津矢車さんによれば、この作品は「水沢の2011年から15年までの活動の集大成ともいえる作品となっている」とのこと。

水沢秋生を読んだことないよ、という方はまずこの本を手に取ってみられてはいかが?

注1 こういった作品の成り立ちを説明することは、誰に対してもほとんどありません。そのため、カバー候補として、イラストレーターのげみさんから上がってきたラフを見たとき、「なんでこの人、知ってるんだ?」とたいそう驚くことになりました。あまりにも、最初のイメージどおりだったので。

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