――そうして、7日目の朝。
僕は静かな気持ちで目覚めた。
窓の外はもう明るくなっていて、時計は4時半を指していた。いつも起きる時間までは、2時間以上ある。
不思議に、静かな気持ちだった。昨日の夜も、自分の選択が正しいのか、悩みに悩んでいたというのに。
ベッドから降りて、制服に着替えて、階段を下りる。こんなに朝早く起きたら、少しはふらふらしそうなものなのに、身体もしゃんとしている。
まるで、すべてがあらかじめ準備されているような感じだった。
「おはようです」
だから、ダイニングテーブルに着いているノアちゃんを見たときも、驚かなかった。
「おはよう」
ノアちゃんも、もう着替えを済ませている。動きやすい、黒の上下だ。
これからどうなるか分からないけれど、でもノアちゃんも、一緒に来てくれるつもりなのだ。そう思うと、こんなときなのに、じんわり心の中が暖かくなった。
「ねえ」
でも、ノアちゃんがあんまり当り前のような顔をしているので、つい尋ねた。
「僕がどうするか、聞かないの?」
僕の心はもう、ほとんど決まっていたけれど、でも今でもほんの少し、迷っていた。
僕の考えたこと、ノアちゃんはどう思うだろうか。
昨日の夜、何度かノアちゃんに話そうとしたけれど結局話すことはできず、そしてまた、ノアちゃんもいつも通りで、僕になにも尋ねようとはしなかった。
ノアちゃんはきょとんとしたように僕の顔をしばらく見つめて、それから言った。
「いいです。聞かなくても」
「なんで?」
つい食い下がってしまった僕を、ノアちゃんはしばらく見つめて、それから口を開く。
「前に言ったです。ノアのお仕事は師匠と一緒にいることです。だから、師匠がどっちに決めても、ノアは師匠と、一緒です」
それに、とノアちゃんはほんの少し、笑った。
「ノアは師匠のこと、信じてますから」
ノアちゃんの笑顔は、とても自然な、愛らしい笑顔だった。
「ありがとう……」
そう言ったけれど、その言葉はノアちゃんだけに向けたものじゃなかった。
きっと上手く行くって言ってくれた、あかねさんや、ちはる。
あれは僕を、信じてくれてたんだ。
「師匠はうっかりさんで、どんくさくて、運命をしっちゃかめっちゃかにしてしまう困ったさんです」
いつも通りとはいえ、改めてひどい言われように思わず苦笑いした。
「でも、ノアは、こーへーのこと、とても、信じてます」
ノアちゃんが力強く、自信満々でうなずく。
「ありがとう」
ノアちゃんと過ごしてきた時間は、とても長いとは言えない。
でも、僕たちの間には、とても大事なことが生まれている。
これから下そうとしている決断。それが正しいのかどうなのか、それは僕にも、そして誰にも分からない。けれど、でも、僕たちの間にあるもの、このとても大事なものさえしっかりと感じることが出来るなら、すべてはきっと、上手く行く。
そして、携帯電話が鳴った。
つづく