豊かな生活

梅田に、スカイビルという、大きなビルがある。とにかくでかい。高いというより、でかい。今のところ周りに高い建物が少ないこともあって、実際以上に巨大に見える。形も変わっている。二棟の高いビルが、屋上部分だけで繋がっている。つまり「凹」の字をひっくり返したような形をしている。どうやって建てたかというと、まず先に左右のビルを建てて、屋上部分に当たる横長の空中庭園を、左右のビルの間からゆっくり持ち上げて上に載せる、という順番で作ったらしい。

えらい手間をかけたものだが、そういう手間をさておいても、このビルを見るたび、なんだかざわっとした気持ちになる。凹の真ん中の空白部分にはチューブ状のエスカレーターや、外が丸見えのエスカレーターがあったりして、高いところが怖い人間(つまり私)にとっては地獄のような場所なので、そういう意味でもざわっとするのだが、それ以上に思うのは、今だったら、こういう建物はできないだろうな、ということだ。

今建てるなら、ビルの間で空中庭園を持ち上げて、などという手間と金のかかる作り方はしないだろうし、そもそも凹の真ん中の空白部分はたぶん埋めて、巨大な真っ四角の、墓石のような建物にするだろう。空白部分がもったいない、そういう発想になるだろう。

もちろん、今のスカイビルが素敵な建物だとはこれっぽっちも思わない。形もとてももっさりしていて鈍重だし、そもそも「スカイビル」という名称もいただけない。が、そのスカイビルを見るたび、正確には左右のビルの間の何もない部分を見るたびに、あれは失ってしまった豊かさなのかもしれないな、と思うのである。


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