8月某日 リバイバル

ファッションというのは流行りと廃りを繰り返すものである。「これはもう、絶対にない」と思ったものでも、十数年を経れば、また少し流行ったりする。ケミカルウォッシュしかり、蛍光ペンみたいなネオンカラーしかり。あと定期的に戻ってくるものといえば、袖を切ったGベストとかMA1とかだろうか。

そして最近、再び流行ってるのではないかと睨んでいるのが、「ペアルック」である。それも、ボーダーで合わせるとか、ワンポイントで同じチェックを使うとか、色味を似せるとか、そういうものではない、がっつりペアルック。先日は、胸に「CELINE」と書いてある白いTシャツを着たカップルを見た。別の日に見たカップルのTシャツには「Oregon」と書いてあった。オレゴンのほうは、どうやら中国人の観光客らしく、セリーヌのほうは関東弁をしゃべる、恐らくは東京からの観光客であった。さらに言えば、セリーヌの人たちの足元はルブタンであったので、やはりこのペアルックというものは「わざとやっている」のだろう。

まあ、服装というものは着ている本人たちの自由で、楽しいなら好きなものを着るべきだと思うが、ここで気になるのは「なぜわざわざ、同じものを着るのか」ということである。もっと言えば、「なぜペアルックを着たいと思うのか」ということである。

たとえば、同じユニフォームを着てスポーツを応援するのは、同じ格好をすることで大きな集団の一員となり、ある種の陶酔感を味わうのが目的である。が、ペアルックにはそこまでの陶酔感はない。『8月31日のロングサマー』というマンガ(とてもおもしろい)には、「I’m 彼女」と書いてあるTシャツが出てくるが、それと同じで、所有権の主張なのか、とも思う。だが、それなら「I’m 彼女」または「I’m 彼氏」と書くべきで、セリーヌとかオレゴンとかが出てくる意味が分からない。あるいは、同じ仕草や動作をする相手に好意を抱く「ミラーリング」を狙ったものか。しかしそもそもペアルックを着ている段階で常軌を逸するほどの好意を抱きあっているのだから、セリーヌとかオレゴンでそれが強化されるとも思えない。

なぜおそろいのものを着たいのか。考えれば考えるほど、謎である。

そして二人が破局したあと、そのセリーヌとかオレゴンとかをどう処分するのか、処分するときどう思うのか、その後はまた、別の人とも、セリーヌやオレゴン(それはシャネルかウィスコンシンかもしれない)を、身につけるのか。世界は謎に満ちている。


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