水都、などと言うように、大阪は川の多い町である。川も多いが、運河も多い。ちょっと出かけるだけでも、何度も川を渡ることになるのだが、この、「川を渡る」というのがとても好きだ。橋を歩いて渡るのもいい。橋の上には、他とは違う風が渡っている。どういう加減か、潮の香りがすることもある。日によっては「どぶ」としかいえない臭いがすることもある。だが、どちらも「都会の川」という感じで風情がある。
川は、電車で渡るのもいい。独特の、鉄橋を渡るリズムを感じることができる。そこには不思議なノスタルジーがある。そういえば、東京と大阪では、電車が鉄橋を渡るときの音が違う気がする。端的に言えば、大阪のほうがうるさい。東京は静かだ。もちろん、意識的に聞き比べをしたわけではないのだけど、その音に大阪的なものを感じるときがある。
川は、昼に渡るのもいいが、夜に渡るのもいい。真っ暗な中で、川面に映っている町の明かりを見ていると、家に帰っているのではなく、どこか遠くへ向っているようにも思えてくる。そういうとき、少し孤独で、少し自由だ。
川を渡るのが好きなのは、きっと、別の世界へ行くような気持ちがするからだろう。あの世とこの世、と言ってもいい。そうして毎日、少しだけ死んだり、生きたりする。