【注意!】
自作解説にはネタバレが含まれていることがあります。未読の方はご注意ください!
『ミライヲウム』は2020年に刊行、2022年に小学館文庫になった水沢秋生の長編小説です。
読んでいただいた方はご存知の通り、この小説には大掛かりな仕掛けが施されています。などというだけでもある程度のネタバレになってしまうのですが、実のところ、この仕掛けが中心で成立した作品ではありません。
作品の構想段階では「相手に触ると未来が見える」というアイデアのみがありました。さらに言えば、当初は「女の子に興味はあるが、触ると見たくないものが見えてしまう、でもあれもしたい、これもしたい」と悶々とする男の子の、どちらかといえばコメディー路線の作品になるだろうな、と考えていました。
しかし、実際に手を動かし始めてみると、どうもしっくり来ない。物語と主人公の性格が、なんだかずれている。
そこで登場したのが、もうひとりの主人公、もうひとりの語り手である『彼女』です。そして『彼女』が現れたことにより、あの仕掛けが生まれました。さらに言うならば、書いている本人も、最初はこの『彼女』が誰なのか分からないままで物語が進んでいきました。あのエンディングに差し掛かったときに一番驚いたのは私自身だったのかもしれません。
ただし、あのエンディングでいいのかどうかというのは、非常に悩んだところでもありました。というのも、強いエンディング、読者をびっくりさせる仕掛けは、わかりやすい反面、ある種の裏切りにもなってしまう。物語を通じて感じたこと、考えたことが、エンディングに吸収されて、その印象しか残らなくなってしまう。
しかし、その強さ、意外性というのはやはり価値のあることでもある。
このことについては、今もまだ答えが出ていません。これからも模索と試行を繰り返していくことになると思います。
幸いにしてこの作品は、様々な書店員の方の応援を頂くことができました。残念なことにコロナ禍により、直接書店に伺ったり、お礼を申し上げることができませんでしたが、SNSなどを通じて拝見したポップや推薦のコメントを見るたびに、じんわり胸が温かくなったものです。
何を言ってもネタバレになってしまう可能性があり、著者としてはぜひびっくりしていただきたいという気持ちもあり、語るのが難しい作品です。それほど分厚くない一冊なので、未読の方はぜひ。